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「深」から「前」へ

第1回 前照灯

2021年07月01日

前照灯

所長
早﨑 保浩

 2021年6月1日付でリコー経済社会研究所所長に就任しました。よろしくお願い申し上げます。

 これを機に巻頭言のタイトルを「深層」から「前照灯」に変更した。「深」も「前」も筆者にとって高い壁ではあるが、社会の前途を少しでも照らすことができるよう努めていきたい。

 改めて手元の辞書を引くと、「前」という言葉にはいろいろな意味があった。中でも、過去を示す「現在に先立つ(ある)時」と、未来を指す「視線・顔が向いている方」の両方に使われることは興味深い(岩波国語辞典)。

 これまで38年間、日本銀行や金融庁など金融の世界で「前」と向き合い続けた。辞書の前者の意味では、過去の歪みに起因する危機が繰り返し襲ってきた。1990年代のバブル崩壊後の日本、リーマン・ショックに象徴される2000年代後半の国際金融危機。そして、今般の新型コロナウイルス感染拡大に起因する内外経済の混迷...

 「危機は形を変えて訪れる」―。というのが金融界の箴言(しんげん)である。とは言え、90年代日本も国際金融危機も、信用バブルの崩壊を契機とする点で共通していた。百年前の世界恐慌も同様である。しかし、今回のコロナ禍は全く様相を異にする。危機の引き金を信用バブル崩壊ではなく、世界中の人々の健康被害が担うからだ。そして、金融界では次の危機の引き金候補として、「サイバー攻撃」や「気候変動」などが取り沙汰される。

 後者の意味の「前」では、金融界の関心は技術革新に集中する。銀行店舗が数多く残り、現金への愛着が根強い日本でも、スマートフォンを通じた取引や電子マネーが当たり前になってきた。人工知能(AI)やビッグデータの活用も急速に進んでいる。高齢者らのデジタルデバイド問題に対応しつつ技術革新を一段と図ることが、顧客目線からも重要だ。もとより、超低金利環境に苦しむ金融機関自らの生き残りにとっても不可欠である。

 「前」を見るという意味で、思い浮かべることがある。子どもの頃夢中になった「鉄腕アトム」などのアニメ番組だ。その1つ「スーパージェッター」の中では、スマートウオッチを予見させる機器で主人公が時の流れを止め、空飛ぶクルマ「流星号」を呼び出していた。

 そして今、スマートウオッチは実用化され、多くの人の腕に装着されている。時の流れを止めることは今も(将来も?)難しいが、空飛ぶクルマは間もなく実現すると聞く。半世紀前の想像力のたくましさを感じ、その大切さを肝に銘じて研究所の運営に当たりたい。

図表

早﨑 保浩

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※この記事は、2021年6月30日発行のHeadLineに掲載されました。

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